物心ついた頃には生活の中にピアノがあり一歳の誕生写真は母に抱っこされて
ピアノを叩いていた写真だったと懐かしそうに思い出を語る彼女は73歳ピアニスト。
幼稚園の頃からは毎日二時間の練習でそれが自然で楽しく
小学生に入ってからの練習は帰宅後三時間、特に発表会前は寝る間を惜しんでの猛練習だったと言う。
夢中で楽しく頑張れたのはピアノが好きだったのと
母親が遊びながら楽しくピアノと関わりを持たせてくれたからだと
ピアニストとして今に繋がっている事を感慨深く話してくれた。
父親は交響楽団の管楽器奏者で、母親は声楽家として活躍し
又母方の祖母もピアニストで正に音楽一家の音楽育ち。
人柄の穏やかな優しさはその環境が生活の中に音楽を自然に溶け込ませて情操教育としても気持を豊かにしたのだろう。
初回面談の時に「音楽がすべてでしたから、結婚をして子育てをしながら家庭を護る女性のスタイルは
自分にはかけ離れた世界だったような気がしていた」とも話す。
二十歳を過ぎる頃には親戚や知人からお見合い話も沢山ありましたが
お逢いする気持ちにはなれない儘、写真を見ることもなく時間だけが過ぎてしまいました。
今思えば気持ちのゆとりがなかったのだと思いますが
もしお見合いをしていたら結婚していたのかなとふと考え想像することがあるとか。
海外を含めた定期演奏会やコンサート、国内のコンサートやそれに合わせた練習に
かなりの時間が必要だった事もあったとか。
ご両親もそれぞれに活躍をされ、祖父母とお手伝いさんが家事と身の回りの世話をしてくれたが
小学校の頃は随分寂しい思いもしたが、お正月に家族が揃って音楽の話をする時
至福に包まれての充実のひとときだったとキラキラした表情で話してくれた。
元気だった母が突然82歳で病に倒れ病室に付き添い看病したひとときが
初めて母と2人でゆっくり過ごし語り合えた時間だったと言う。
母もそう話し和やかな時を過ごせた温かい思い出が心に刻まれ
母亡き後もあの時の母の笑顔に救われていると言う。
ピアノ教室で子供達にお稽古を続け成長し上達していく過程に大きな喜びはあったが65歳を過ぎた頃から
急に気持ちの中に言葉に尽くせぬ寂しさが広がり
その寂しさを音楽が埋めてくれる事はないと気付いたと切なそうに話してくれた。
彼女が結婚に望むものは日々の温かい暮らしと会話だけで、それ以外は望まなかった。
大学時代に一度だけ恋をしたが、将来の夢に向けてそれぞれの方向に進み結婚には至らなかった。
婚活を始めて四ヶ月が過ぎ三度目のお見合いの方と意気投合し交際が始まった。
大学の研究職の方でやはり初婚で、仕事に夢中になり気付くと70歳を過ぎていたとの事で
週に一回のデートは観劇や一日ドライブ、名所旧跡巡りを楽しんで半年後に結婚。
新居は結婚相談所埼玉とは車で20分の距離。毎日弾いていたピアノは時々夫の為に奏でるくらいで
念願だった家庭菜園に夢中で毎日が新鮮で初めての事ばかりで楽しい日々が創られている。
時々届けられる野菜に感謝し2人の幸せぶりに感動している。